こんにちは、元臨床心理士の春井星乃です。
現在は、心理学・精神分析・エニアグラムを通して性格構造を明らかにする「イデアサイコロジー」を提唱しています。
先週、まきしむの運営するサイト「ココロジー」で「【新説】”メンヘラ”には3タイプいる? 近年増えてきた「完全主義タイプ」とは」という記事を書き、「これは完全に自分」「自分の中にも絶対ある」「90年代のメンヘラ感の背景が分かった」など嬉しいコメントも頂きました!
読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございます。
この記事でお話した「王道タイプ」「完全主義タイプ」「演出タイプ」は私の臨床経験をもとにタイプ分けしたものですが、なんとこれがそのままエニアグラムタイプと重なってくるんですよね。
つまり、「王道タイプ」がタイプ4(タイプ4についての詳しい解説は「エニアグラムタイプ4の内面的特徴と外面的特徴【有名人事例】」をご覧ください)、「完全主義タイプ」がタイプ1(タイプ1についての詳しい解説は「エニアグラムタイプ1の内面的特徴と外面的特徴【有名人事例】」をご覧ください)です。
これを発見した時はほんとに衝撃で私はそこからさらにエニアグラムにのめり込んで行くわけですが、今回の記事では「なぜ境界性人格障害はタイプ4とタイプ1がメインなのか」という問題を、エニアグラムタイプと乳幼児期の意識発達、欲求・不安のコントロール度、成長と退行の方向性などを通してお話してみたいと思います。
欲求・不安コントロール度と心の病気・自己実現
意識の発達段階とエニアグラムタイプの形成過程
エニアグラムの成長と退行の方向性
エニアグラムとは?
境界性人格障害のお話に入る前に、まず「エニアグラムってなに?」という方のために簡単に説明しておきますね。
このブログの読者の方でエニアグラムとイデアサイコロジーについてご存知の方は繰り返しになってしまうので、飛ばしてください。
エニアグラムとは、1950年代にオスカー・イチャーソが考案した9つの性格のタイプによる性格分析法で、AppleやDisney、Sony、IBMなどの世界的な有名企業が研修に取り入れていると言われています。
タイプ1 | 裁判官:自分のルールを守りたい人 | 西野亮廣 |
タイプ2 | 看護師:いい人と思われたい人 | マツコ・デラックス |
タイプ3 | 実業家:優位に立ちたい人 | 中田敦彦 |
タイプ4 | 芸術家:存在確信を得たい人 | 落合陽一 |
タイプ5 | 研究者:世界を把握したい人 | ヒロシ |
タイプ6 | 営業マン:みんなに好かれたい人 | 出川哲朗 |
タイプ7 | 芸人:楽しい雰囲気にしたい人 | 梶原雄太 |
タイプ8 | 教祖:人を動かしたい人 | 箕輪厚介 |
タイプ9 | 庭師:平和を維持したい人 | ローラ |
*各タイプの名称、有名人の事例はイデアサイコロジーで考案のもの。
イデアサイコロジーでは、0〜6歳の乳幼児期の親子関係において、この9つのタイプのうち一つのタイプの認知様式が形成され、13〜14歳ころから欲求や不安といった形で意識され始めると考えています。
このエニアグラムタイプの意識化が、自我同一性(アイデンティティ)の確立に欠かせないものであるとイデアサイコロジーでは考えているんですね(詳しくは「自我同一性を確立するには?」をお読みください)。
欲求・不安コントロール度と心の病気・自己実現
このエニアグラムタイプの欲求・不安を意識化してたとしても、この欲求・不安に翻弄されてしまって現実生活がうまくいかなくなる場合があります。
イデアサイコロジーでは、各タイプの欲求・不安に翻弄されてコントロールができなくなることで、さまざまな種類の心の病気が生じると考えています。
そして、この欲求・不安のコントロール度を上げていけば、そのタイプの長所を活かして現実生活で能力を発揮し、好きなことで成功する人生を歩むことができるようになります。
心理学でよくいう「自己実現」の状態ですね。上の表で事例にあげた有名人の方々は非常に洗練された形で各タイプの能力を発揮していますよね。
この図のように、各タイプはグラデーションのように欲求・不安のコントロール度によって状態が変わっていきます。各タイプの色は、私のなんとなくのイメージです(笑)。
そして、この欲求・不安のコントロール度が下がっていって生じてくる心の病気の1つが、ココロジーの記事で取り上げた境界性人格障害です。
この境界性人格障害と関連しているのが、エニアグラムタイプのタイプ4とタイプ1です。
王道タイプがタイプ4、完全主義タイプがタイプ1ですね。
演出タイプは1つのエニアグラムと対応してるわけではなく、自我同一性が確立していないケースや社会的な基準を重要視するタイプ3・6・9と関連しているケースなどいろいろなケースがあります。
意識の発達段階とエニアグラムタイプの形成過程
ココロジー記事でお話したように、王道タイプ=タイプ4は、「消えてしまう不安」が根本にあって、そこから他者との絆を求める、操作、衝動性、自傷行為などの傾向が生まれます。
完全主義タイプ=タイプ1は、「完全で正しくありたいという欲求」から自罰他罰傾向、罪悪感、自分が理想とかけ離れているという絶望感、察してちゃん的行動、自傷行為が生じてきます。
でも、どうしてタイプ4とタイプ1なのか、皆さん不思議に思いますよね。
まず現実を観察して事実そうなっているということなんですが、理論的に説明してみると次のようなことが言えるかなと私は思っています。
イデアサイコロジーでは、先程もお話したように、エニアグラムタイプとは乳幼児期に形成される自己と他者・世界の認知様式だと考えます。
そして、これを心理学者フロイトの発達理論における口唇期(0〜1歳半)・肛門期(1歳半〜3歳)・男根期(4歳〜6歳)の概念を使用して説明しています。
イデアサイコロジーでは、口唇期は「自分と自分じゃないもの」の世界と考えます。このときの「自分」は身体ではなく、快不快や感覚の総合のような抽象的であいまいなものです。
そして、「自分じゃないもの」も「母親」や「おもちゃ」などと分かっているわけではなく、「自分の快不快にとって重要な何か」という認識になります。
このような世界では、自分が自分じゃないものと一体化したいという欲求が根本的な欲求となります。
次に肛門期になると、自分は「身体」と認識されるようになります。そして、母親や父親、兄弟なども「身体」として認識されます。肛門期では、このような「身体対身体」の世界で、自分が注目され、中心的な立場でありたいという欲求が根本的な欲求となります。
そして男根期では、言葉が発達して心という概念が生じ、子供は「心」に同一化しはじめます。ここでは、「善悪の概念」が芽生え、「自分がよい子と認められたい」ということが根本的な欲求となってきます。
イデアサイコロジーでは、この各段階の根本的欲求が、満たされたのか、欲求不満だったのか、それともそれが満たされない不安が大きかったのかで、エニアグラムタイプが決定されると考えています。
乳幼児期の親子関係で、その子供にとって最も重要な経験がどのようなものだったかによって、その後の認知様式を形成する自己イメージ・他者イメージが作られるということです。
これを各タイプに当てはめると以下のようになります。
欲求不満 | 満足 | 不安 | |
男根期(4〜6歳) | タイプ2 | タイプ6 | タイプ1 |
肛門期(1歳半〜3歳) | タイプ8 | タイプ3 | タイプ7 |
口唇期(0〜1歳半) | タイプ5 | タイプ9 | タイプ4 |
欲求不満系のタイプ2・5・8は外部環境をコントロールすることに意識が向きやすく、満足系タイプ3・6・9は社会的基準に合わせることを重要視します。
そして、不安系タイプ1・4・7は自分の内面をコントールすることに意識が向きやすく、孤独を感じやすいという特徴があります。無意識との境目が曖昧になりやすい面があるので芸術的才能がある方が多く、繊細なんです。
なので、タイプ1とタイプ4が境界性人格障害になりやすいのはここからも説明できますが、タイプ7は境界性人格障害の患者さんではお会いしたことがないんですよね。
エニアグラムの成長と退行の方向性
では、タイプ4とタイプ1のつながりって他にもあるのでしょうか。
アメリカや日本で学ばれている一般的なエニアグラム理論には、成長と退行の方向性という考え方があります。
タイプ4は成長するとタイプ1的な傾向を持つようになり、タイプ1は成長するとタイプ7的な傾向を持つようになるというものです。つまり、上図でいうと、右回りが成長の方向、左回りが退行の方向ということになります。
タイプ3・6・9は独立していて、タイプ9は成長するとタイプ3、タイプ3は成長するとタイプ6的な傾向を持つようになります。同様に、左回りは退行の方向です。
これは一般的なエニアグラム理論ですが、イデアサイコロジーでは、成長の方向のタイプの傾向があるからといって成長しているとは限らず、また退行の方向の傾向を持つから退行しているとは限らないと考えています。
たとえば、タイプ1がタイプ7的な傾向を持つことはよくありますが、それはタイプ1の特徴を抑圧した状態であることも多くあるんです。
つまり、タイプ1を意識化してそこにアイデンティティを持ち、その特徴を最大限に活かしたところにタイプ7的な傾向を持つことが大事なんです。これは他のタイプでも言えることです。
なので、成長・退行の方向性は大まかにはありますが、基本的に両隣のタイプの影響を受けやすいということなのではないかと私は考えています。
そこで、境界性人格障害がなぜタイプ4とタイプ1なのかということを改めて考えてみます。
境界性人格障害は基本的にタイプ4が王道なので、両隣のタイプ2とタイプ1が影響を受けます。
タイプ2は、欲求・不安コントロール度が下がると周囲を心配させて愛情を確認しようとしますが、欲求不満系で意識が外部に向かい、無意識との境は強固ですので、境界性人格障害的な言動に至ることは少ないです。
タイプ7はタイプ1・4と同じ不安系ではありますが、タイプ4の両隣ではないので、影響をあまり受けないのかもしれません。そのかわり、タイプ1の影響はかなりあって、正義感が強く潔癖症の傾向を持つタイプ7は結構多いです。
こう考えると、なぜ境界性人格障害がタイプ4とタイプ1に生じるのかが説明できるのではないかと思っています。
今回はちょっと理論的な難しい話になってしまいましたが、この理論的背景が分かると自分や周囲の人たちのエニアグラムタイプ、意識発達についても捉えやすくなるのではないかと思います。