こんにちは、元臨床心理士の春井星乃です。
現在は、心理学・精神分析・エニアグラムを通して性格構造を明らかにする「イデアサイコロジー」を提唱しています。
先日、4月23日の「社会学者宮台真司さんのお話を心理学的に考察してみた。」の記事に、なんと宮台さんご本人からコメントをいただきました!
ホントに嬉しくて興奮しすぎて頭痛になったくらい(笑)、私にとっては大きな出来事でした。
宮台さんがご紹介してくださったおかげで、この記事はたくさんの方に読んでいただけて、嬉しいコメントも多々いただきました。
私はこの記事の最後に、
これからの時代は、右翼か左翼か、資本主義か共産主義か、支配者層か被支配者層かという対立構造ではなく、「自我同一性達成か早期完了か」、宮台さんの言葉でいえば「マトモかクズか」ということが更に浮き彫りになっていくのではないでしょうか。
と書いたのですが、おそらくみなさんが気になるのは、「じゃあ、どうしたら自我同一性を確立できるの?」ってことだと思うんですよね。
この記事で私は、
そして、もし「崇高なものとの同一化」をしてしまっているならそれを自覚して、自分の本質的な感情、つまり、今まで抑圧してきたネガティブな感情や弱さ、親との関係などともう一度向き合い、本当の自分を取り戻すことです。
とは書いていますが、これは本当に大枠の説明だけにしかなっていないので、具体的にどうしたらいいのかは分かりにくいですよね。
なので、今回はこれについてさらに詳しくお話してみようと思います。
「ほんとうの自分」ってなに?
フロイト派の性格分類法を実用化したのがエニアグラム
自我同一性地位を知るにはエニアグラムタイプ判定が重要
エニアグラムタイプと精神病理
性格の4つの階層構造
自我同一性を確立するためには
「傾倒」には2種類ある
「社会学者宮台真司さんのお話を心理学的に考察してみた。」では、自我同一性について次のように説明しました。
「自我同一性」とは、これまでもこれからもこの自分であるという「一貫した自分」や「これこそが自分自身だ」という感覚のことを指します。
人間は13〜14歳前後から自我同一性確立への課題に向き合うことになるとされていますが、心理学者マーシャは、この自我同一性を確立するためには、「危機」と「傾倒」という2つの条件が必要だと考えました。
「危機」とは、それまで当たり前だと感じて取り入れていた価値観に対して迷いを感じ、自分はこれでいいのかと考え始めること、「傾倒」とは、自分で選択したある特定の事柄に対し、興味関心を持ち、積極的に関わることです。
そして、マーシャはこの「危機」と「傾倒」の組み合わせで、自我同一性を確立するまでには4つの段階があるとしました。「自我同一性達成」「モラトリアム」「早期完了」「自我同一性拡散」です。このマーシャの理論を「自我同一性地位」と呼びます。
マーシャは、自我同一性を達成するためには「危機」と「傾倒」を経験することが必要だと言っています。
「危機」は「それまでの価値観や生き方に迷いを感じ、これでいいのか考えはじめること」ということで、これはそのままの意味で比較的分かりやすいですよね。
でも、「傾倒」の方はどうでしょうか。
「自分で選択したある特定の事柄に対し、興味関心を持ち、積極的に関わること」と言われても、「どうしたら何かに興味関心を持てるの?」とか「その対象はなんでもいいの?」という疑問が湧いてきます。
でも、マーシャはそのへんのことは詳しく言及していないんですよね。
私は、「傾倒」には2種類のものがあると考えています。早期完了の「傾倒」と、自我同一性達成の「傾倒」です。
宮台さんの言葉で言えば、早期完了の傾倒は「自発性」、自我同一性達成の傾倒は「内発性」です。
つまり、早期完了の「傾倒」は、親や家庭環境から生じた価値観や、「自分以外の崇高なもの(国・思想・科学・家庭や仕事での立場・性別etc)」との同一化なんです。
宮台さんの言葉で言えば「自動機械」「ウヨ豚」「クソフェミ」「法の奴隷」などなどですね。
これは「ほんとうの自分」とは全く関係のない、「他者からもたらされるもの」です。
それに対して、自我同一性達成の「傾倒」は、自分の本質的な部分から湧いてくる感情や欲求・不安などと関連しています。
「ほんとうの自分」ってなに?
「じゃあ、その「ほんとうの自分」「自分の本質的な部分」ってなんなの?」ってみなさん思いますよね。
これを説明するために、まず、精神分析の創始者フロイトの意識発達理論について簡単にお話しますね。
フロイトは、「リビドー」と呼ばれる性的衝動や欲望を核とした以下のような「心理性的発達理論」を提唱しています。
口唇期 | 0〜1歳半 | 母乳を吸うことにリビドーが集中し、口唇周辺の感覚が快不快を決定する。 |
肛門期 | 1歳半〜3歳 | トイレットトレーニングにリビドーが集中し、肛門の感覚が快不快を決定する。 |
男根期 | 4歳〜6歳 | 男根にリビドーが集中し、男根の感覚が快不快を決定する。 |
潜在期 | 6歳〜12歳 | リビドーが影を潜め、感情的に安定する。 |
性器期 | 13・14歳〜 | 初めて性器そのものによる満足が求められる。 |
フロイトは、人間の性格は、男根期までの間に欲求不満や過度な満足を経験し、その段階に固着したり退行したりすることで生じると考えます。
そこから、さまざまな防衛機制(抑圧や否認、合理化など)が生じ、悪化すると精神病理が生じるんですね。
私も、フロイトのいう口唇期から男根期(0歳〜6歳ころ)までの経験によって世界の認知様式が作られ、それが13〜14歳ころから影響を及ぼし始め性格として表現されると考えています。
そして、この乳幼児期に作られる世界の認知様式を意識化することが、自我同一性を達成するための「傾倒」や「ほんとうの自分」「自分の本質的な部分」とつながるということなのではないかと私は考えています。
では、この乳幼児期に作られる世界の認知様式はどのように性格に影響するのでしょうか。
フロイト派では、例えば、口唇期で満足した人は、楽観的・依存的で、欲求不満を経験した場合は抑うつ、退却的、受身的、他者から愛情を注がれていないと自尊心を保てないなどの特徴を持つというように考えます。
でも、このような性格分析法は臨床では解釈として使われることがありますが、あまり世間一般には認知されていませんよね。
おそらく、まだ明確ではない部分が結構あって、あまり実用的ではないからだと思います。
フロイト派の性格分類法を実用化したのがエニアグラム
このフロイト派の性格類型の内容を実用的に、かなり具体的に記述したのがエニアグラムだと私は考えています。
「エニアグラムってなに?」という方のために、簡単に説明しておきますね。
エニアグラムとは、1950年代にオスカー・イチャーソが考案した9つの性格のタイプによる性格分析法で、AppleやDisney、Sony、IBMなどの世界的な有名企業が研修に取り入れていると言われています。
タイプ1 | 裁判官:自分のルールを守りたい人 | 西野亮廣 |
タイプ2 | 看護師:いい人と思われたい人 | マツコ・デラックス |
タイプ3 | 実業家:優位に立ちたい人 | 中田敦彦 |
タイプ4 | 芸術家:存在確信を得たい人 | 落合陽一 |
タイプ5 | 研究者:世界を把握したい人 | ヒロシ |
タイプ6 | 営業マン:みんなに好かれたい人 | 出川哲朗 |
タイプ7 | 芸人:楽しい雰囲気にしたい人 | 梶原雄太 |
タイプ8 | 教祖:人を動かしたい人 | 箕輪厚介 |
タイプ9 | 庭師:平和を維持したい人 | ローラ |
そして、このエニアグラムをフロイトの意識発達理論等を使って説明しているのが、私の提唱している「イデアサイコロジー」です。
「イデアサイコロジー」では、エニアグラムタイプは乳幼児期の経験から形成される世界の認知様式であると考えています。
各タイプの名称や説明は「イデアサイコロジー」で考案したものです。右の欄の各タイプの有名人は他にもたくさんいるのですが、いまネットで活躍している方を中心にあげてみました。
自我同一性地位を知るにはエニアグラムタイプ判定が重要
先程もお話したように、自我同一性を達成するための「傾倒」、つまり、乳幼児期に作られる世界の認知様式=エニアグラムタイプはあくまでも自分の中にあるものです。
自分でも気づかない意識の深い部分に沈んでいるものなので、他者や社会の価値観や知識、情報を取り入れたり、頭で考えたりして分かるものではないんです。
日々の人間関係や生活、仕事のなかで湧き上がってくる欲求・不安を感じ、そのパターンを探っていくことでしか認識することができないものです。
例えば、タイプ2なら「友人の相談に乗ったら感謝されてとても嬉しかった」とか、タイプ6なら「人に嫌われるのが怖くて、自分を犠牲にしてその場を取り繕ってしまった」、タイプ7なら「ギャグを言ってみんなが笑ってくれたのが快感で忘れられない」などです。
思春期に自分の力でこれに気づいていくことができる人もいますが、近年の、宮台さんのいう「クズ」が増加している「クソ社会」では、それが困難な人がとても多いんですね。
このような時代の中で、このエニアグラムが果たす役割はかなり大きいと私は思っています。
自我同一性確立のために「傾倒」するということが、乳幼児期に形成される世界の認知様式=エニアグラムタイプを意識化することであると考えるならば、エニアグラムタイプの明確な特徴が出ていて、自分でも「それこそが自分」という感覚を持っていれば、その人は自我同一性達成の可能性が高いと考えられるからです。
つまり、自分や周囲の人たちの意識がいまどんな状態なのか、「自我同一性達成なのか早期完了なのか」を知るには、エニアグラムタイプの判定がかなり重要になってきます。
エニアグラムタイプと精神病理
ただ、一概にそうとも言えないケースもあります。
エニアグラムタイプの欲求や不安に気づいていたとしても、それに過度に支配されてしまうと精神的に不安定になっていきます。そして、それが悪化していくと、さまざまな精神病理を発症することになるんです。
例えば、タイプ1は完全で正しくありたいという欲求が根本的な動機となっているタイプで、それを他者や環境にも求めます。良い方に表れば、しっかりしていて真面目、仕事ができるという長所で出ますが、この欲求をコントロールできなくなると、完全じゃない自分や他者を責める、人に任せられない、自分の考えを押し付けるなどの短所として表れます。
これが更に悪化すると、強迫性障害や強迫性人格障害、統合失調症などの精神病理を発症することになります。
このように、タイプが明確に分かっていたとしても、各タイプの欲求・不安のコントロール度が低い場合は、自己評価も低く、そこにアイデンティティを持ちにくくなります。
また、他人から見れば、エニアグラムタイプの影響が出ていると思われる人でも、本人はそれを自覚していない場合もあります。
そして、エニアグラムタイプは自覚してはいても、それ以上に親の価値観や「自動機械」の影響の方が強く、そこによりアイデンティティを感じている人もいます。
いずれにしても、まず、自分や他人の意識状態を知るためにはエニアグラムタイプに注目して見ることが大切だと私は思っています。
性格の4つの階層構造
以上のような考え方から、私の提唱している「イデアサイコロジー」では、人間の性格は4つの階層から成り立つとしています。
まず、もっとも深い部分にあるのが遺伝の影響、その上にエニアグラムタイプの影響の層があります。この2つは意識しにくく、一生変化しないものです。
その上に、乳幼児期・児童期の経験の影響があります。これは、主に親子関係や学校の友人関係、勉学などの記憶がもとになって形成されます。ここの影響が強すぎると「危機」を経験しにくく、「早期完了」となるケースが多いです。精神病理を発症する場合もあります。
もっとも意識の浅い部分にあるのが、中学生以降の経験の影響です。「自分以外の崇高なものとの同一化」はこの階層にあるものです。
この上部の2つは比較的意識しやすく、変化させることができるものとなっています。
そして、イデアサイコロジーでは、人間はこの中のある1つの層に同一化すると、それ以下の層の影響を客観的に見てコントロールすることができなくなると考えています。
なので、たとえば国や思想や性別などの「自分以外の崇高なもの」に同一化してしまうと、それ以下の乳幼児期・児童期の経験の影響やエニアグラムの影響を客観的に分析することができず、無意識にそこから来る欲求や不安、感情に振り回されることになります。
自我同一性を確立するためには
したがって、自我同一性を確立するためには、まず、
(1)エニアグラムタイプの欲求・不安・長所・短所が自覚されているか
(2)親や家庭環境の影響
(3)自分以外の崇高なものとの同一化の影響
の3点に注目して、自分の意識状態を正確に知ることが重要になってきます。親や家庭環境の影響や「自分以外の崇高なもの」「自動機械」に同一化している場合は、それを客観視して、それと自分の本質とは別物と意識します。
そして、日々の人間関係や生活、仕事の中でエニアグラムタイプを自覚し、各タイプの欲求・不安のコントロール度を上げていくことです。
たとえば、上にあげた各エニアグラムタイプの有名人の方々は、いずれも各タイプの長所を非常に洗練された形でうまく使っていらっしゃいます。
自分が強いモチベーションを持ち続け、自分らしく能力を発揮して輝くためには、エニアグラムタイプの特徴を活かすことが必要不可欠だと私は思っています。
ただ、乳幼児期・児童期に強い影響のある方にとっては、この過程は実はカウンセリングで数年かけて行っていくことでもあるので、困難なことが多いです。そういう方は、臨床心理士のカウンセリングを受けてみるのも1つですね。
「仕事・恋愛・人間関係の悩みを根本から解決!最も正確な自己分析のやり方」の連載記事では、各タイプの形成過程、各タイプの特徴、有名人の例、エニアグラムタイプ判定法、性格の全体像の判定法など、自我同一性を確立させるために必要なことを実践レベルでかなり詳しく書いていく予定です。
ご興味のある方はぜひ見てみてくださいね。