こんにちは、元臨床心理士の春井星乃です。
現在は、心理学・精神分析・エニアグラムを通して性格構造を明らかにする「イデアサイコロジー」を提唱しています。
「仕事・恋愛・人間関係の悩みを根本から解決!最も正確な自己分析のやり方」シリーズの第2回目の記事です(まず↑の記事から順にお読みください)。
前回の第1回目の記事「性格ってどうやってできるの?」では、「乳幼児期に作られる認知様式」が「悩みを根本から解決するための自己分析の重要なカギになる」とお話しました。
それは、なぜなのでしょうか。
まず1つには、第1回目の記事でも書いたように、この「乳幼児期に作られる認知様式」から生じる欲求・不安を感じ取り、それをもとに価値観や人生観を形作っていくこと、つまり「傾倒」することが自我同一性を達成するために必要なことだからです。
そして、これは、逆にいえば「乳幼児期に作られる認知様式」から生じる欲求・不安に基づいて自分の生き方を選択していない場合は、自我同一性が確立されていないということになります。
つまり、「乳幼児期に作られる認知様式」の意識化の有無が、その人の意識の状態を決める決定的な因子となっていると言えるのです。したがって、「乳幼児期に作られる認知様式」を意識化しているかどうかを知ることが、自分や他人の意識状態を知るためにまず必要なことになります。
第2回目の記事では、この「乳幼児期に作られる認知様式」とはどういうものなのかについて、私の研究と臨床経験から得た考えをお話したいと思います。
「乳幼児期に作られる認知様式」とはエニアグラム
さて、まず結論から先に言ってしまうと、私はこの「乳幼児期に作られる認知様式」はエニアグラムだと考えています(この経緯について詳しく知りたい方は「ごあいさつ」をご覧ください)。
エニアグラムをご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明しておきますね。
エニアグラムとは、1950年代にオスカー・イチャーソが考案した9つの性格のタイプによる性格分析法で、AppleやDisney、Sony、IBMなどの世界的な有名企業が研修に取り入れていると言われています。
タイプ1 | 裁判官:自分のルールを守りたい人 |
タイプ2 | 看護師:いい人と思われたい人 |
タイプ3 | 実業家:優位に立ちたい人 |
タイプ4 | 芸術家:存在確信を得たい人 |
タイプ5 | 研究者:世界を把握したい人 |
タイプ6 | 営業マン:みんなに好かれたい人 |
タイプ7 | 芸人:楽しい雰囲気にしたい人 |
タイプ8 | 教祖:人を動かしたい人 |
タイプ9 | 庭師:平和を維持したい人 |
第1回目の記事では、フロイトの「人間は口唇期、肛門期・男根期の間(0〜6歳)に欲求不満や過度な満足を経験し、ある特定の段階に強く影響されることで性格が生じる」という考え方をベースに「乳幼児期に作られる認知様式」について説明しました。
私は、このフロイトの性格形成に関する理論をより精緻に具体的にしたのがエニアグラムではないかと考えています。
フロイトの意識発達理論とエニアグラム各タイプの対応
このフロイトの意識発達理論をベースに、エニアグラムの9つのタイプは、乳幼児期の3段階で「欲求不満」「満足」「不安」のどの経験の影響が強いかで作られると考えます。
この9つのタイプが具体的にどのように作られるのかをお話するには、口唇期から男根期までの意識発達についてお話しなければなりません。
ちょっと抽象的な話になってしまいますが、これを理解すると9つの各エニアグラムタイプの特徴がかなり捉えやすくなるので、読んで頂けるとうれしいです。
では、はじめましょう。
まず0歳から1歳半の口唇期は、「自分と自分じゃないもの」の世界です。このときの「自分」は身体ではなく、快不快や感覚の総合のような抽象的であいまいなものです。そして、「自分じゃないもの」も「母親」や「おもちゃ」などが分かっているわけではなく、「自分の快不快にとって重要な何か」という認識になります。
このような世界では、自分が自分じゃないものを飲み込みたい=一体化したいという欲求が根本的な欲求となります。
次に肛門期になると、自分は「身体」と認識されるようになります。そして、母親や父親、兄弟なども「身体」として認識されます。肛門期では、このような「身体対身体」の世界で、自分が注目され、中心的な立場でありたいという欲求が根本的な欲求となります。
そして男根期では、言葉が発達して心という概念が生じ、子供は「心」に同一化しはじめます。ここでは、「善悪の概念」が芽生え、「自分がよい子と認められたい」ということが根本的な欲求となってきます。
この各段階の根本的欲求が、満たされたのか、欲求不満だったのか、それともそれが満たされない不安が大きかったのかで、エニアグラムタイプが決定されます。
たとえば、タイプ5の場合を考えてみましょう。
アメリカの心理学の実験で、お母さんが不安だったりイライラしていたりすると、それは赤ちゃんに伝わるというものがあります。赤ちゃんが母親の胸に抱かれておっぱいを飲んでいるけれども、母親が不安感を持っていると、赤ちゃんはそれを敏感に感じとって、「自分じゃないもの=世界と一体感が持てない」「飲み込みたいのに飲み込めない」という感覚を持ちます。
すると、
自己イメージ:「自分じゃないもの=世界」に受け入れられない自分
他者・世界イメージ:自分を受け入れてくれないもの
という自己・他者イメージができあがり、思春期になってそこを通して世界が認知されると、タイプ5の欲求・不安が表れてくるんですね。
その他のタイプの根本的な経験は以下の通りです。
<口唇期>
タイプ5→「自分じゃないものと一体化できなかった欲求不満」
タイプ9→「自分じゃないものと一体化した満足感」
タイプ4→「自分じゃないものに飲み込まれる不安」
<肛門期>
タイプ8→「世界の中心になれなかった欲求不満」
タイプ3→「世界の中心になれた満足感」
タイプ7→「世界の中心ではないという不安」
<男根期>
タイプ2→「いい子と認められなかった欲求不満」
タイプ6→「いい子と認められた満足感」
タイプ1→「いい子ではないという不安」
このような乳幼児期で最も印象的な経験によって、自己イメージ・他者イメージが作られ、これが「乳幼児期に作られる認知様式」となります。詳しくは、第5回目から始まる各タイプの特徴についての記事でお話します。
各タイプは違う世界に住んでいる
また、このような認知様式の違いから、各タイプが無意識に認識している世界は実は非常に異なるものになっています。影響された発達段階によって住んでいる世界が全く違うものになるんです。
たとえば、口唇期のタイプ4・5・9は、「自分と自分じゃないもの」というイメージを投影して世界を見ているので、世界は何か抽象的な捉えどころのないもののように感じています。ただ漠然と「世界」とか「社会全体」「環境」といった感じで捉えています。
肛門期のタイプ3・7・8は、「身体対身体」というイメージを投影しているので、世界は目に見える自分の身体と他人の身体の集合体のように感じています。
そして、男根期のタイプ1・2・6は、善悪の概念で構成された世界に生きています。世界は言葉による善悪の概念によって出来上がっているものと認識されるんです。
このような発達段階による世界観の違いを頭に入れておくと、さらに各タイプの特徴を理解しやすくなります。
欲求不満系タイプ258・満足系タイプ369・不安系タイプ147
発達段階による世界観の違いの他に、もうひとつエニアグラムタイプを分ける要素が、先程お話した欲求不満・満足・不安という3つの経験の違いです。この3種類の経験によって、意識や興味の向かう方向性の違いが生じてきます。
まず、欲求不満系のタイプ2・5・8は、自分の外部をコントロールしたいという欲求が強くあります。つまり、自分の興味の対象が、外部環境や他人などの外的世界になっているのです。
満足系のタイプ3・6・9は、自分が外部と融合している状態を維持しようとするので、社会的基準や価値、常識に沿うことを第一に考えます。社会で共有されている価値観を自分の価値観に取り入れやすいです。
そして、不安系のタイプ1・4・7は、欲求不満系とは逆に、自分の内部の、感情・思考・欲求・不安などの心の状態をコントロールしようとする欲求が強くあります。ですから、興味の対象は自分の内部です。5回目以降の記事で詳しくお話しますが、タイプ1・4・7にはミュージシャンやアーティストなど、芸術系の方が非常に多いです。
このように、口唇期・肛門期・男根期の世界認識の違いと、欲求不満・不安・満足の3つの経験からくる興味の対象の違いの組み合わせによって、各エニアグラムタイプの特徴が形成されていきます。