意識の成長と退行―心の病気と「他者化」―

 あなたは、健康的でよい心の状態や精神的に高いレベルというのは、どのような状態のことを言うと思いますか?

 「性格の階層構造」の記事でも少しお話しましたが、イデアサイコロジーでは、人間の心の状態において望ましいのは

「中学生以降の経験の影響」「乳幼児期・児童期の経験の影響」「エニアグラムタイプ」「遺伝の影響」をそれぞれ意識化し、その影響を客観的に分析し、その影響に無意識に翻弄されずに意識的にコントロールして、周囲の状況や自分の状態をよい方向に持っていくことができる

 という状態だと考えています。このような状態になれば精神的にもラクに生きることができるようになりますし、ビジネス・人間関係・恋愛・結婚・子育てなどの現実生活もうまく行くようになります。

 また、逆に、心の健康や成功し幸せに生きることを妨げる作用には2つの種類のものがあると考えています。

 1つは、さまざまな種類の心の病気であり、もう1つはイデアサイコロジーが「他者化」と呼んでいる作用です。

 

 心の病気は、性格の4つの階層のすべてが影響して生じてくるものですが、中でも「乳幼児期・児童期の経験」と「エニアグラムタイプ」が大きく影響しています。「乳幼児期・児童期の経験」がネガティブなものだったり、無意識的に抑圧したものが溜まっていたりすると、「エニアグラムタイプ」の特徴がネガティブにしか表現されなくなります。すると、現実生活もうまく行かなくなり、さらに状態が悪化して、心の病気が生じてきます。

 一方、「他者化」とは、文字通り「自分が他人のようになること」です。

 この「他者化」を説明するために、少し心理学のお話をしてみましょう。心理学には、「自我同一性(アイデンティティ)」という概念があります。「自我同一性」とは、これまでもこれからもこの自分であるという「一貫した自分」や「これこそが自分自身だ」という感覚のことを指します。

 そして、人間は13〜14歳前後から自我同一性確立への課題に向き合うことになるとされています。心理学者マーシャは、この自我同一性を確立するためには、「危機」と「傾倒」という2つの条件が必要だと考えました。

 「危機」とは、それまで当たり前だと感じて取り入れていた価値観に対して迷いを感じ、自分はこれでいいのかと考え始めること、「傾倒」とは、自分で選択したある特定の事柄に対し、興味関心を持ち、積極的に関わることです。

 そして、マーシャはこの「危機」と「傾倒」の組み合わせで、自我同一性を確立するまでには4つの段階があるとしました。「自我同一性達成」「モラトリアム」「早期完了」「自我同一性拡散」です。


自我同一性達成「危機と傾倒」両方経験自我同一性を確立している
モラトリアム「危機」のみ経験自分の生き方を模索中
早期完了「傾倒」のみ経験親の価値観で生きている
自我同一性拡散どちらも経験していない自分がなく流されて生きる状態

 この中で、「危機」を経験せず、親の価値観や人生観をそのまま取り入れ、それを自分として生きている状態を「早期完了」と呼びますが、これがイデアサイコロジーにおける「他者化」の概念と深く関係しています。つまり、本当の自分ではなく、親の価値観と同一化して「他者化」してしまうということです。

 この「早期完了」の状態が続くと、本当の自分とつながっていないため、何事においても本当の自信や確信を持てなくなっていきます。すると、親だけでは飽き足らず、自分よりも崇高なもの(国・政治的思想・性別・家族での立場・仕事・専門知識・スピリチュアル的思想など)に同一化して、自己肯定感を高めようとします。

イデアサイコロジーでは、13〜14歳以降、親や自分以外の「崇高なもの」と同一化することで自分を保って生きることを「他者化」と呼んでいます。

 

 この「他者化」の作用は、性格の4階層のなかでも「中学生以降の経験」の中で生じるものですので、この段階への同一化と考えます。これが生じると、それ以下の階層の「乳幼児期・児童期の経験」「エニアグラムタイプ」「遺伝の影響」を客観的に見ることができなくなります。

 すると、それ以下の階層の影響を無意識的に受けることになり、現実生活に支障を来す場合もあります。

 表面的にはなんの問題もないように見えるケースもありますが、深い自分の本質が見えていないため、他人も深く理解することができず、人間関係で真に深い絆を築くことは難しくなります。

 また、その自分イメージを守るために、それに相反する人物や物事を批判する傾向や、現実をそのまま認識することができず、自分に都合の良い解釈をする傾向も生じます。

 日本人の精神的な状態を悪くしている要因について考えてみると、90年代までは「心の病気」の影響力が強かったのですが、現在は「心の病気」よりもこの「他者化」が原因で生じているネガティブな事象がかなりたくさんあると感じています(詳しくは著書『奥行きの子供たち』・『奥行きの子供たち』第2章抜粋記事「境界例と『エヴァンゲリオン』―庵野監督の心の世界―」・ナゾロジー掲載記事「『天気の子』の「違和感」の正体は結局何だったのか」参照)。

 イデアサイコロジーでは、この「他者化」の状態を改善し、できるだけ多くの人が自分の本質とつながり、自分の能力や魅力を十分に発揮して幸せに生きることができる社会を実現することを目的にしています。