こんにちは、元臨床心理士の春井星乃です。
現在は、心理学・精神分析・エニアグラムを通して性格構造を明らかにする「イデアサイコロジー」を提唱しています。
「仕事・恋愛・人間関係の悩みを根本から解決!最も正確な自己分析のやり方」シリーズの第1回目の記事です(まず↑の記事を読んでからお読みください)。
前回「自分の心のパターンに無意識だと、いくら効果があると言われている対処法をしても結果が出ないことがある」「気づいていない心のパターンを含めた自己分析が必要」とお話しました。
では、この心のパターンとは何なのでしょうか。それが分からないと、悩みを根本から解決する自己分析をすることはできませんよね。
私が前回お話した「心のパターン」とは、もう少し詳しく言うと「ある個人の認知・思考・感情・行動の一貫したパターン」ということになります。
これを心理学では「性格」と呼びます。心理学で性格研究というと、「類型論」「特性論」という2つの大まかな分野があります。
「類型論」とは、ある特定のタイプに当てはめて性格を説明するもの、「特性論」とは、複数の要素を取り出し、その組み合わせで性格を説明しようとするものです。ネットでもよく見かける「ビック5」という質問紙テストは、この「特性論」の中で最も信頼性が高いと言われているものです。
ただ、これらはその人自身が意識している範囲内で、テストをしている瞬間を切り取って性格特徴を捉えるための方法なので、実は、無意識の心のパターンを捉えることはできません。
この無意識の心のパターンを捉えるためには、「人間の性格とはどのように作られるのか」という側面から考えることが必要になってきます。
心理学では、一般的には「性格は遺伝と環境の相互作用で作られる」と言われています。
でも、心理学の性格研究は、上記のように意識している範囲で外から見える一時的な特徴を捉えるためのもので、遺伝や出生時からの経験などを含めた長期的なスパンの総合的な研究というのはあまりされていないんです。
そこで、私が研究と臨床経験から導き出した「性格のでき方」をみなさんにお伝えしたいと思います。
この第1回から第4回までの記事は、少し知識のお勉強的なものになってしまいますが、「悩みを根本から解決する自己分析」をするための基礎となるものなので、ぜひお時間のあるときに読んでみてくださいね。
性格には4つの層がある
では、さっそく始めましょう!
先程「心理学では、性格は遺伝と環境の相互作用で作られると言われている」とお話しました。
遺伝は分かりやすいと思いますが、環境と漠然と言われても、家庭環境、親子関係、学校環境、友人関係、学業などいろいろあって、どれがどのように影響しているかが分からないですよね。
そこで、ここでは性格を作る要素を4つに分けて考えます。「遺伝」はそのまま使用し、「環境」を出生後の経験と捉え、これを3つに分けます。
まず1つ目は遺伝の影響です。最近では遺伝と性格の関係を示すさまざまな研究も出てきています。例えば、外向性・内向性、衝動性、社交性などは遺伝の影響がかなりあるとされていますね。
2つ目は、乳幼児期に主に親子関係で作られる認知様式です。
精神分析の創始者フロイトは、「リビドー」と呼ばれる性的衝動や欲望を核とした以下のような「心理性的発達理論」を提唱しています。
そこでは、人間は口唇期から男根期までの間(0〜6歳)に欲求不満や過度な満足を経験し、ある特定の段階に強く影響されることで性格が生じると考えます。
つまり、乳幼児期のある段階に意識が強く影響されてしまい、成長後もそこで作られた認知様式を引きずって生きることで性格が作られると考えるんですね。
そして、3つ目は乳幼児期と児童期の家庭や幼稚園・学校などにおける経験の影響、4つ目は中学生以降の経験の影響となっています。
この4つの要素のそれぞれの特徴についてはあとで詳しく説明しますが、その前にこの4つの要素の役割と関係性についてお話しましょう。
この4つの要素は並列の関係ではなく、心のなかで、地球の地層のように上下に重なっています。
もっとも意識の浅い部分にあるのが「中学生以降の経験」。これは当然、いちばん意識しやすいものになります。
次に浅い部分にあるのが「乳幼児期&児童期の経験」、3番目が「乳幼児期に形成される認知様式」、一番無意識に近い部分にあるのが「遺伝の影響」と考えます。
なので、下に行くほど意識しにくいものになります。
そして、下の2つ、「遺伝」と「乳幼児期に作られる認知様式」は一生その特徴が変わることはありません。
また、上の2つの「経験」の層は、記憶の捉え方を変えることで影響を軽減したり、良い方に使うことができるようになります。
自我同一性と「乳幼児期に作られる認知様式」
この「4つの層」の考え方は、思春期以降、成人後の現在から自分の性格を見るときに使うものなのですが、実際には、4つの各層は乳幼児期から成人後までの時系列に沿って作られていくものです。
なので、この4つの層のそれぞれをより理解するためには、乳幼児期から思春期までの意識発達に沿ってお話することが必要になってきます。
乳幼児期については先程簡単にお話したので、次に児童期から説明しますね。
フロイトは、男根期以降の6歳から12歳までを「潜在期」と呼んでいます。この時期は、その名の通り、欲求や衝動が影を潜めて表に出てきづらくなり、そのかわり、社会的規範や人間関係のコミュニケーションや認知機能を発達させていく時期となります。
そして、その後の13〜14歳以降は「性器期」と呼ばれていて、また欲求や衝動が活発化し始める時期になります。
心理学者のエリクソンは、この13〜14歳以降の思春期では、自我同一性を確立することが課題となると言っているんですね。
「自我同一性」とは、これまでもこれからもこの自分であるという「一貫した自分」や「これこそが自分自身だ」という感覚のことです。アイデンティティとも言われています。
13〜14歳って、人目が気になるようになってくると同時に、自分の内面も客観的に見るようになってきますよね。そのような働きによって、自我同一性というものを意識するようになっていくんです。
また、マーシャという心理学者は、この自我同一性を確立するためには、「危機」と「傾倒」という2つの条件が必要だと考えました。
「危機」とは、それまで当たり前だと感じて取り入れていた価値観に対して迷いを感じ、自分はこれでいいのかと考え始めること、「傾倒」とは、自分で選択したある特定の事柄に対し、興味関心を持ち、積極的に関わることです。
そして、マーシャはこの「危機」と「傾倒」の組み合わせで、自我同一性を確立するまでには4つの段階があるとしました。「自我同一性達成」「モラトリアム」「早期完了」「自我同一性拡散」です。このマーシャの理論を「自我同一性地位」と呼びます。
これを読んで、きっと「でも傾倒できるものってどうしたら見つかるの?」とか「その対象はなんでもいいの?」と思う方もいらっしゃいますよね。
実は、マーシャはこれについては詳しく説明していないのですが、私は傾倒は最初にお話した「乳幼児期に作られる認知様式」と関係していると考えています。
乳幼児期に親子関係を通して他者イメージ・自己イメージが作られ、思春期になると、それを通してすべてのことを無意識的に判断するようになります。
そして、乳幼児期に作られる認知様式を通した無意識の判断によって様々な欲求や不安、感情が湧き上がってくるんです。これが「傾倒」の内容となります。
この認知様式から湧き上がってくる欲求や不安とつながらないと、根無し草のようになって、どんなに趣味に熱中したとしても自分の人生を生きられず、いつも何か足りない感じや漠然とした不安を感じたりするようになってしまいます。
乳幼児期・児童期の経験
次に、3番目の「乳幼児期・児童期の経験」について説明しますね。
2番目の「乳幼児期に作られる認知様式とは違うの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
「乳幼児期に作られる認知様式」は、いわば自我の枠組みのようなもので、かなり無意識に近い部分にあるものなので、欲求や不安、感情としてしか意識できません。
同じ乳幼児期の出来事ではありますが、その上に、記憶にもかすかに残っているような日常のエピソードの影響が重なってきます。
「お母さんがいなくて寂しかった」とか「お母さんに抱かれて安心していた」「幼稚園で友達と遊んで楽しかった」「お父さんとお母さんがケンカしていた」などですね。
これが、「乳幼児期の経験」となります。
つまり、その記憶にもかすかに残っているような乳幼児期の記憶と児童期の記憶を合わせたものが、3番目の「乳幼児期・児童期の経験」ということになります。
自分以外のものとの同一化と心の病気
ただ、13〜14歳になっても「乳幼児期・児童期の経験」の影響が強すぎると、そこでできたイメージが自分だと思いこんでしまうために「乳幼児期に作られた認知様式」から生じる欲求や不安を意識化できず、早期完了のまま生きてしまうケースが出てきます。
つまり、「自分以外のもの」を自分として生きてしまう状態です。
たとえば、親が厳しくて「〜するべき」という価値観が強かったり、親にいつも否定されていたりすると、その影響から抜け出せずに、自分はそういう人間だと思ったまま成長してしまうというようなケースです。
もう一つ、親や家庭の影響がポジティブでも早期完了になるケースもあります。たとえば、長男・長女としていつも弟妹の面倒を見たりお手伝いをするいい子というイメージで生きてしまうとかですね。
そして、早期完了のまま生きてしまうと、「乳幼児期に作られた認知様式」から生じる本当の自分の感情や欲求・不安を自分で無意識にシャットアウトしてしまうので、何事にも自信や確信、強いモチベーションを持ちにくくなります。
そうなると、更に、たとえば国や政府、社会的常識、なんらかの思想、科学、性別、家族や仕事での立場、有名人・アニメキャラを好きな自分などに同一化して自信や安定を保とうとする傾向も出てきます。
私はこれを「他者化」と読んでいますが、そうなると、より「乳幼児期に作られる認知様式」とはつながりにくくなってしまうんです。
ですから、幸せに生きるにはやっぱり自分の奥底から湧いてくる感情や欲求・不安を通して「乳幼児期に作られる認知様式」とつながることがすごく大事なんですよね。
でも、「乳幼児期に作られる認知様式」を意識化していても、「乳幼児期・児童期の経験」の影響が特にネガティブだったりすると、「乳幼児期に作られる認知様式」から生じる不安や欲求がコントロールできなくなる場合もあって、そこからいろんな心の病気が生じてきます。
なので「自分がどの心の病気になりやすいか」は、「乳幼児期に作られる認知様式」のパターンによって影響される場合が結構あります。
中学生以降の経験
そして、最後に「中学生以降の経験」です。
記憶にある範囲の「経験」を「乳幼児期・児童期」と「中学生以降」に分けて考えるのは、同じ人生上の経験でも、乳幼児期・児童期の経験は、それ以降の経験とは比べ物にならないぐらい性格に大きな影響を持つからです。
もう一つの理由は、中学生以降に「乳幼児期に作られる認知様式」から生じる感情や欲求・不安と向き合い、自我同一性の課題に取り組むことになるからです。
この「中学生以降の経験」の層で、自我同一性地位が分かれ、ある人は早期完了のまま生き、ある人はモラトリアム、ある人は自我同一性達成に至ります。
自我同一性達成の場合は、更に欲求・不安のコントロール度を高め、その能力を社会的に活かす人もいますし、また、早期完了やモラトリアム、自我同一性拡散の人が何らかの経験によって自我同一性達成に変わることもあります。
自我同一性地位に関係なく、人間は学校・仕事・友人・恋愛・結婚・子育てなどでいろんな経験をしていくので、その影響も「中学生以降の経験」に入ります。
つまり、この「遺伝」「乳幼児期に作られる認知様式」「乳幼児期&児童期の経験」「中学生以降の経験」という4つの要素が組み合わさって、1人の人間の性格ができあがっているんですね。
表面的には1つの性格のように見えても、その奥では4つの要素が影響してるということです。
性格は「4つの層の内容」と「どの層に同一化しているか」の組み合わせ
そして、もう一つ、人間は「遺伝」以外の3つの層のどれかに主に同一化していることが多いという傾向もあります。
例えば、早期完了で国や政治的思想、仕事での立場などに同一化している人は、「中学生以降の経験」の層に同一化しているということになります。
それから、同じ早期完了でも「乳幼児期・児童期の経験」の層に同一化してる人もいます。
そして、もう一つ、ある1つの層に同一化するとそれ以下の層の影響が抑圧されて意識しにくくなるため、コントロールできずに翻弄されてしまうという傾向もあります。
たとえば、「中学生以降の経験」の層で、ある思想に同一化してしまうとそれ以外の価値観や世界観を受け入れることができなくなり、「乳幼児期・児童期の経験」の層にある子供の頃の悲しみや怒り、自分の弱さ、自信のなさなども意識しなくなってしまいます。当然、「乳幼児期に作られる認知様式」から生じる欲求・不安も感じることができません。
すると、より深い層にある無意識の感情に翻弄されるようになり、人間関係などで問題が起きるようになります。
ですから、最も望ましいのは「乳幼児期にできる世界の認知様式」を意識化してその層にアイデンティティを持ちつつ、欲求・不安をコントロールして、自分の特徴・能力の1つとしてよい方向に利用していくという状態です。
でも、そこに到達するには、その前に「中学以降の経験」の層の「自分以外のもの」に同一化していないかどうか、「乳幼児期・児童期の経験」の層の、親の価値観や家庭環境でできあがったイメージに同一化していないかどうかを自分でチェックして、そこから抜けていかないといけないのですね。
これは、前回の記事でもお話しましたが、実際患者さんのカウンセリングで行うと数ヶ月から数年かかることなので、相当難しいことです。
でも、それができると遺伝の影響も意識化して良い方向に利用することができるようになっていきます。
つまり、性格は、遺伝や乳幼児期に作られた認知様式、乳幼児期・児童期や中学生以降の記憶の内容のほかに、どの層に同一化するかでも変わってくるということです。
4つの層の内容とどの層に同一化するかの組み合わせで、本当に十人十色の性格ができあがります。
ですから、仕事や恋愛、人間関係がうまくいかない場合は、まずその問題が自分のどの層から来ているのか、4つの層のそれぞれの内容はどのようなものか、そして、自分がどの層に同一化しているのかを知ることが重要になってくるんです。
つまり、この4つの層を1つ1つ探っていくのが「悩みを根本から解決する自己分析」となります。
そのためには「乳幼児期に作られた認知様式」が重要なカギとなるのですが、これについては次の第2回目の記事以降で詳しくお話していきます。